yuripinがゆく

平渡友理 / 1994年生まれ。大学、大学院では建築学を専攻した。世界中の伝統的建造物、伝統工芸がすき。

北の島でのステキな一夜

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民宿には、ホテルにはない魅力がある。

礼文島という島を聞いたことがあるだろうか。日本のほぼ最北端にある、人口2,450人ほどの、高山植物が咲き乱れる美しい島である。

稚内からフェリーで2時間。東京では連日35℃超えの猛暑日が続いているというのに、この島ではパーカーを着ていないと肌寒い。島に到着すると、やや無愛想な男性が民宿の車で迎えにきてくれた。対岸の利尻富士を眺めながら、海沿いの道をワゴン車で進む。車内で友人が男性に島についてあれこれ質問するも、回答はそっけないものだった。

宿は、海辺にたつ赤い屋根のかわいらしい民宿だった。玄関の前では、祖母と孫らしいご年配の女性と体操着を着た中学生くらいの女の子が、ベンチに座って楽しそうにお喋りしていた。

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宿泊した民宿

部屋に荷物を置き玄関へ降りる。すると、さきほど迎えに来てくれた無愛想な男性が肩に手拭いをかけ、私たちに会釈もせずに浴室へと歩いて行った。「宿の人がこの時間に堂々と入浴?」不思議に思いながら自転車の準備をしていると、今度はやけに愛想のよい男性が現れた。

「あのひとは、毎年来てくれる常連さんでねえ。普段は関東に住んでる、自転車の有名な選手なんだよ。」

無愛想な彼はなんと民宿の人ではなく、私たちと同じお客さんだったのだ。

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夕食

近くの神社で日本海に沈む夕陽を眺めたあと、夕食メニューの当てっこゲームをしながら宿へと帰った。

新鮮な海の幸が盛りだくさんの夕食を堪能していると、 給仕をしてくださっていた女性がパタパタとやってきた。

「明日のトレッキングプランについての打ち合わせで、所長がロビーでお待ちですよ!」

ロビーへいくと、さきほどのやけに愛想の良い男性が笑顔で待っていた。この人がどうやら「所長」らしい。彼はトレッキングプランの話を簡潔に決めたあと、宿のアルバイトの高校生の話や自身の経歴などについて、小1時間ほど話し続けた。奥さんは、たまたま群馬県からこの民宿へ泊まりにきていて出会ったのだという。そして彼は何かにつけて、

「君も移住してきなよ。」

と言うのだった。

気がつくと夜9時だった。化粧も落とし、寝る気満々のスタイルで浴室を出ると、玄関に笑顔の所長がいた。

「みんなで星をみにいかない?」

星。じつは私は、美しい星空をみることが大好きだ。願ってもいないチャンスに、二つ返事でいくことにした。

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民宿の方々に連れられてみた星空

 所長にフリースを貸してもらい、車で山の上へ行った。常連さんと私たちはレジャーシートの上に仰向けに寝転がった。そこで、うまれてはじめて天の川を見た。何十回も、流れ星を見た。イカ釣り船がお休み中のお盆は、とくに星空が綺麗にみえるのだそう。私たちはいつまでもいつまでも、北国の澄んだ空気の中で、夜空いっぱいの星空をながめていた。

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突如招待された謎の飲み会

星空を堪能し宿に戻ると、所長に「今から一杯やろう」と誘われた。断る理由もないため行ってみると、そこには20年来の常連さんしかいなかった。さきほどの無愛想な男性もいる。

それぞれ、本州から毎年長期休暇を利用して訪れているようだった。中には大阪と礼文島で、年に半分ずつ住んでいるという方もいた。その方から、礼文島の漁業事情や島の人間関係について一通り聞いた。

「礼文島と大阪で、全然違う人生を同時並行していてすごいですね。」

と言うと、彼女は

「人生、たのしめ!」

と笑った。彼女は以前、南米にも長期間住んでいたことがあるという。「人生、たのしめ!」という言葉に、無愛想な男性が笑顔で静かにうなずいていた。今の私には、この言葉がむず痒く感じてしまった。

机の上は、全国各地からのお土産や礼文島のお魚が溢れかえっていた。横では所長が、「国勢調査までに移住してきてくれると嬉しい。」

と、冗談なのか本気なのかよくわからない様子で、何度も繰り返していた。

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 翌日、予定通りトレッキングを遂行し、最後は所長にフェリーターミナルまで送ってもらった。所長は、

「昆布漁はとくに人手が不足しているから、いつでも来てね。」

と、相変わらず本気なのか冗談なのかわからない調子で話す。

 

帰りのフェリーの中、宿にいた人たちの顔をひとりひとり思い出していた。そして、私の中にある意味のない枠組みの外に、世界は広く広く広がっているのだと感じた。

「昆布漁、手伝いに来てしまうかも。」

と友人が言った。

「わたしはウニがいいな。」

と返す。満点の星空のように広い世界の中で、私たちはこれから、どう生きようか。

 

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